講義の文字起こしでつまずくのは、ツール選びではありません。録音の可否、ファイルの長さ、専門用語、聞き直しの手間、この4点です。順番も決まっています。まず録音してよいかを確かめます。次に90分を1ファイルのまま通します。専門用語を用語集で固定します。最後にタイムスタンプを残します。この順で進めれば、あとから手戻りしません。
この記事は各社が公開している仕様と価格を突き合わせたものです。精度を実測したものではありません。Notta の数字はすべてnotta.ai の料金ページを2026年8月18日に確認したもので、年間プラン(12ヶ月分一括払い)の表示です。Subanana の数字も同じ日に subanana.com の料金ページで確認したものです。
開示しておきます。私は Subanana という文字起こしサービスを運営しています。そのため Notta が向いている場面ははっきり向いていると書きますし、Subanana が向かない場面もそのまま書きます。


ステップ1:録音してよいかを先に確かめる
講義を録音する前に、大学の規程を確認します。履修要項や学生便覧に、録音や撮影についての規程が書かれている場合があります。規程がある場合はそれに従います。
規程で明確に禁止されていない場合でも、担当教員への事前確認は別に必要です。京都大学の学生支援プログラム HEAP は、講義音声の録音について、担当教員とあらかじめ合意しておくと進めやすいと案内しています。録音データを二次的に利用しない、という前提を先に共有しておく、という趣旨です。これは大学の支援プログラムによる案内であって、法律の説明ではありません。
確認しておきたいことを整理します。
- 履修要項・学生便覧に録音や撮影の規程があるか
- 担当教員に録音の目的と範囲を事前に伝えているか
- 録音データを共有しない・SNSに上げない・売らないという範囲で合意できているか
- 障害学生支援室などを通じた配慮がある場合、その手続きに沿っているか
規程で禁止されている場合は、この先に進まないでください。
ステップ2:90分をそのまま1ファイルで通す
90分の講義を分割して文字起こしすると、話の続きが切れます。専門用語の表記も前半と後半でずれやすくなります。だから90分は1ファイルのまま通すのが基本です。
各社がどこまで対応しているかを並べます。
| プランや構成 | 1回に通せる長さ | 月あたりの文字起こし枠 | テキストの書き出し |
|---|---|---|---|
| Notta フリー | 3分まで | 120分/月 | できません(プレミアム以上) |
| Notta プレミアム | 5時間まで | 1800分/月 | できます |
| Subanana 無料プラン | 各ファイルの最初の15分だけ生成 | 月3ファイルまで | 有料プランから |
| Subanana 有料プラン | 1ファイル 30 GB / 8時間 | プランごとの年間の枠 | できます |
出典:Notta の行は notta.ai の料金ページ、Subanana の行は subanana.com の料金ページを、いずれも2026年8月18日に確認したものです。
Notta のフリープランは1回につき3分までしか文字起こしできません。90分の講義はこの時点で通りません。ダウンロードもプレミアム以上の機能です。Notta プレミアムなら1回5時間まで通ります。90分の講義であれば十分な長さです。
Subanana は1ファイルあたり30 GB、8時間までという上限が無料プランを含む全プランで共通です。プランによって長さの上限が変わるわけではありません。ただし無料プランは各ファイルの最初の15分しか生成しません。字幕や逐語稿のファイル書き出しもできません。90分を通しで文字として残すには有料プランが必要です。
録音の入口として専用のボイスレコーダーを検討している場合は、まずNottaとPLAUDの比較を読んでから決めるほうが早いです。
なお、どのツールでも録音が終わってから処理が始まります。90分の音声を上げてすぐに完成したテキストが手元にあるわけではありません。講義直後にそのまま読み始めるつもりなら、この待ち時間も見込んでおいてください。
ステップ3:専門用語を用語集で固定する
講義で崩れるのは、普通の日本語ではありません。専門用語、人名、書名、記号の読みです。シラバスとレジュメから20語ほど拾って、録音の前に用語集へ登録しておくと、あとで直す量が変わります。これがこの記事の中心です。
用語集そのものはこの分野の標準機能です。あるかないかではなく、粒度の話として比べます。Subanana はワークスペース全体に効くリストと、プロジェクトごとに付ける Custom リストを分けられます。用語は1件ずつ追加しても、まとめて貼り付けても、XLSX や CSV から一括で取り込んでもかまいません。各用語は全言語共通にするか、特定の言語に限定するかを指定できます。
| プラン | 年額でのお支払い | 年間の文字起こし枠 | カスタム用語集 | 参考資料のファイル数 |
|---|---|---|---|---|
| Free | 無料 | 1 プロジェクトにつき 15 分 | 1 件 · 5 語 | 3 |
| Lite | $108 | 年 720 分 | 3 件 · 20 語 | 10 |
| Pro | $216 | 年 2,160 分 | 10 件 · 60 語 | 30 |
| Max | $600 | 年 7,200 分 | 最大 300 語 | 200 |
出典:subanana.com の料金ページ(2026年8月18日確認)。金額は同ページの表示どおり米ドルです。
Notta 側も単語登録に対応していて、料金ページではプレミアム以上のプランの機能として挙げられています。
科目ごとにリストを分けておくと、同じ単語の意味の取り違えを避けられます。統計学の「有意」と法学の「有意」はどちらも講義に出てきますが、意味が違います。科目ごとのリストなら混ざりません。1学期に4科目を受けているなら、リストも4つに分けておくのが素直です。
シラバスやレジュメの PDF・DOCX・PPTX をそのまま参考資料として読み込ませることもできます。専門用語を手で拾う手間を減らせます。
ステップ4:タイムスタンプを残して聞き直しを減らす
復習で時間を食うのは、読むことではありません。探すことです。SRT と VTT は行ごとに開始時刻と終了時刻を持つ字幕形式です。書き出したファイルの時刻をそのままノートに書いておけば、音声プレーヤーで同じ位置に飛べます。
講義中に「ここが分からなかった」と思った瞬間があれば、その時計の時刻を1行だけノートにメモしておきます。あとで文字起こしの該当箇所を探す手間がほぼ消えます。録音開始が10時40分で、分からなかったのが11時05分なら、探すのは25分あたりの1か所だけになります。
Subanana の書き出しは SRT・VTT・TXT・DOCX・XLSX・Markdown の6形式と、6形式すべてを含む ZIP です。時刻が必要なら SRT か VTT を使います。そのままノートに貼るなら DOCX か Markdown が向いています。
ステップ5:復習ノートの形に落とす
逐語稿モードと会議モードでは、句読点と段落の自動整形がつねに入ります。切り替える設定はありません。話者分離にも対応しているので、教員の説明と学生の質問を分けて読めます。
要約は30種類以上のテンプレートから選べます。自分用のテンプレートを作ることもできます。文字起こしから整形までをまとめて試すならAI文字起こしツールから始めるのが早いです。ゼミや研究室のミーティングを同じ流れで残したい場合はAI議事録ツールのほうが目的に近いです。
聞き間違いや同音異字が残った場合、エディタが候補を出します。採否は必ず自分で選びます。勝手に置き換わることはありません。抜け落ちた語を補う機能でもありません。
英語で行われる講義なら、1回の文字起こしジョブに翻訳先を1言語つけられます。逐語稿モードと会議モードでの翻訳先は1言語です。対応言語は95以上あるので、英語開講のゼミや留学生向けの科目でも、翻訳先に日本語を選んでおけます。
ステップ6:1年分の必要分数を先に計算する
ここが一番間違えやすいところです。以下は時間割をそのまま掛け算した数字で、実測ではありません。
1コマ90分、週3コマ、15週の学期なら4,050分です。年2学期なら8,100分です。週1コマだけに絞れば1,350分、年2,700分です。
| 録る範囲 | 1学期(15週) | 1年(2学期) | 収まる選択肢の例 |
|---|---|---|---|
| 週3コマすべて | 4,050分 | 8,100分 | Notta プレミアム(1800分/月) |
| 週2コマ | 2,700分 | 5,400分 | Notta プレミアム |
| 週1コマだけ | 1,350分 | 2,700分 | Subanana Max(年 7,200 分) |
| 試験前に5回だけ | 450分 | 900分 | Subanana Pro(年 2,160 分) |
全コマを文字起こしするつもりなら、分数あたりの価格では Notta プレミアムのほうが安いです。Subanana はこの土俵では勝てません。Notta プレミアムは年額14,220円で月1,800分、単純に12倍すると年21,600分です。Subanana は年額600ドルの Max でも年7,200分です。週3コマを全部通すには足りません。
実際に読み返すのは全コマではないはずです。分からなかった回、試験に出る回、英語で行われた回に絞ると、必要な分数は一気に下がります。週1コマなら年2,700分で収まります。ここまで絞れば、分数の総量よりも、用語がそろっているかどうかのほうが効いてきます。
Notta の料金ページには、学生・教職員向けに半額と表記された割引の申込リンクが置かれています。適用後の金額はページに出ていません。条件と金額は Notta の申込画面で確認してください。
Subanana の料金はこちらの料金ページで確認できます。外注してしまう場合の相場は文字起こしの外注料金で比較できます。
向く人と向かない人
Notta が向く人
全コマを録って残したい人に向いています。学生・教職員向けの割引の申込リンクが公開されている点も使いやすいです。日本語のインターフェースで、国内での導入実績もあります。
Subanana が向く人
録るのは選んだ回だけで、専門用語を科目ごとに固定したい人に向いています。90分から数時間の1ファイルをそのまま通したい人にも向いています。SRT や VTT の時刻付きファイルと DOCX を使い分けたい人、英語で行われる講義に訳文を並べたい人にも向いています。
Subanana が向かない人
分数あたりの単価だけで選ぶなら、Notta プレミアムのほうが安いです。無料プランでは書き出しができないので、無料のまま完結させたい人には向きません。専用のハードウェアはないので、PC もスマホも開かずに録音を始めることはできません。どのプランにも分数の上限があります。国内の文字起こしサービスをもう一つ見比べたいなら、Rimo Voiceの料金も確認しておくとよいです。
よくある質問
文字起こしは違法ですか?
一般論として合法か違法かをここで断定することはできません。判断の軸は2つあります。大学の規程と、担当教員の許可です。録音そのものが認められていても、そのデータを共有したり、SNS に上げたり、売ったりするのは別の話です。所属大学の規程を確認し、担当教員に一言確認しておくのが確実です。法的な判断が必要な場合は、大学の窓口か専門家に相談してください。
ChatGPTで文字起こしはできますか?
提供元の仕様は変わり続けるので、可否は公式ページで確認してください。ここで断定はしません。講義用途で効いてくる判断軸は3つあります。1ファイルの長さの上限、時刻付きの形式で書き出せるか、専門用語を事前に登録できるか。この3点で決めるとよいです。
授業の録音・文字起こしを無料でできるアプリは?
正直に書きます。無料枠は各社にありますが、90分の講義を丸ごと通して、テキストとして手元に残すところまでを無料で終えられるものは多くありません。Notta のフリープランは1回につき3分までで、ダウンロードもプレミアム以上の機能です。Subanana の無料プランは各ファイルの最初の15分をプレビューできますが、月3ファイルまでで、書き出しはできません。無料枠は出力の質を確かめる場として使い、続けるかどうかを決めてから支払うのがおすすめです。
大学の講義の文字起こしが禁止されている場合はどうすればいいですか?
規程で禁止されているなら録音しません。そのうえでできることがあります。担当教員に理由を説明して個別に許可を求める、障害や配慮が関係する場合は学生支援の窓口を通す、公式に配布されているレジュメや録画教材があればそれを使う、という方法です。もう一つの方法として、講義中は要点だけ手書きにして、直後に自分の声で吹き込んだ音声メモを文字起こしする、というやり方もあります。この方法は講義音声そのものを複製しないので、規程との衝突を避けやすいです。
まとめ
順序をもう一度短くまとめます。録音してよいかを確かめる。90分を1ファイルで通す。専門用語を用語集で固定する。タイムスタンプを残す。復習ノートの形に整える。1年分の必要分数を計算する。
この順番を守れば、ツール選びで迷う時間は減ります。全コマを録るなら Notta プレミアムの分数あたりの価格が有利です。選んだ回だけを、専門用語を固定して残したいなら、Subanana のほうが合います。
学期が始まる前に決めておきたいのは、料金プランではありません。どの科目のどの回を残すか、です。そこが決まれば、必要な分数も、用語集を何本用意するかも、自然に決まります。